【東村山市 ✕ フォーバル】「待つ支援」から「届ける支援」へ。市内約3,600事業所の経営力強靭化に挑む「東村山モデル」とは
この記事を読むとわかること
- 「何から手をつけるべきか分からない」中小企業へ、東村山市が目指す「プッシュ型伴走支援」の具体的な進め方
- 経営者の意識変革を起点に、全社でのDX認定取得や売上倍増、販路開拓等を実現した市内企業の成功事例
- 女性デジタル人材の育成・マッチングによる「地産地消型」の人材循環モデル
- 市内の金融機関、経済団体等と連携し、支援対象を大幅拡張した「経営力強靭化支援事業」の全体像
はじめに
東村山市では今、行政・民間・金融機関が一体となった最前線の経営支援が広がっています。
今回は東村山市役所の地域創生部産業振興課より、企業立地推進担当主幹の平岡晋吾様、商工振興係の大澤純人様のお二人にお話を伺いました。
【今回ご紹介する事業】
- 令和5年度(2023年):中小企業等デジタル化推進支援事業及び女性デジタル人材育成事業
- 令和6年度(2024年):中小企業等デジタル化推進支援事業及び女性デジタル人材育成事業
- 令和7年度(2025年):中小企業等デジタル化推進支援事業及び女性デジタル人材育成事業
- 令和8年度(2026年):中小企業等経営力強靭化支援事業
平岡様は令和5年度(2023年)からフォーバルへの委託事業の窓口を担当しており、今回のご紹介する取り組みの初期段階から東村山地域の経営支援を推し進めた立役者です。現在はさらなる地域振興のため、企業立地推進担当として活動されています。
大澤様は3年前に入庁され、商工振興係として現在進行形で市内事業者の経営課題解決に取り組まれています。
今回お聞きする市内企業への経営支援がどのように始まり、どんな成果につながったのか。そこから得られた気づきや今後の展望について語っていただきました。
2,000社アンケートが映した現実:「何から取り組むべきか分からない」現場の声

——東村山市の産業構造と、事業者が抱える経営課題について教えてください。
平岡様:
「東村山市内には約3,600の事業所があり、卸・小売業、医療・福祉、飲食サービス業で約半数を占めています。そして、全体の4分の3が10人未満の比較的小規模な事業所です。
これまで経営課題等を統計的に把握する機会が少なかったのですが、令和3年度(2021年)に市内の2,000社へアンケート調査を実施したことで実態が見えてきました。」
——どのような結果が出たのでしょうか。
平岡様:
「アンケートをお送りした2,000社のうち、ご回答いただいたのは約40%(約800社)でした。コロナ禍でデジタルシフトが進む中での調査でしたが、ICT(情報通信技術)活用の質問に対して一番多かったのは、『ICTの活用に取り組んでいない』という回答でした。理由を聞く質問では「導入・活用方法がわからない」「効果が期待できない」が上位を占め、さらに「デジタル化推進で市に期待すること」という問いには、半数が『無回答』でした。この結果から、経営者自身が「何をしたらいいのか」すら掴めていない状況ではないかと仮説を立てました。」
インタビュアー:
「市に期待することが無回答というのは、少し気になる結果ですね。」
平岡様:
「はい、このアンケート結果を受けて、デジタル化やDXに関する支援事業を立ち上げられないかと検討したことが、『中小企業等デジタル化推進支援事業』の発端となっています。
この事業は、デジタル技術の導入などを通じて、新たなビジネスモデルの創出や業務プロセスの改善に取り組む市内中小事業者を支援するものです。」
遠く山口県の事例が結んだ縁と、部署の垣根を超えた「人材の地産地消モデル」の着想
——『中小企業等デジタル化推進支援事業』の委託先としてフォーバルを選定された決め手は何だったのでしょうか。
平岡様:
「フォーバルさんが、山口県で実施されていた中小企業向けのデジタル化事業をネットで見かけ、問い合わせたのが最初のきっかけです。フォーバルさんは経営コンサルティングが本業であり、その強みをそのまま活かして支援に取り組んでもらえる点が決め手のひとつになりました。」
——同時期に『女性デジタル人材育成事業』も進んでいたそうですね。
平岡様:
「はい、当初は別の部署である市民相談・交流課で『女性デジタル人材育成』への取り組みが進んでいました。子育てや介護等で離職中または非正規雇用の女性を対象に、男女間の賃金格差の解消とデジタル人材の育成・確保を図ることを目的とした取り組みです。
『中小企業等デジタル化推進支援事業』の協議を進める中で、『中小企業のデジタル化には受け皿となる人材が不可欠』という課題が見え、市内で育成した女性デジタル人材と、課題を抱える中小企業をマッチングさせれば一石二鳥ではないか、という発想に繋がりました。
最終的には市長の判断により、所管する部署は異なるものの、2つの事業を一体的に実施することになりました。地域で人材を育成し、その人材が地域企業の支援に携わる「人材の地産地消」のような効果も見据え、公募型プロポーザル(事業提案を募り、最も優れた提案者を選定する契約方式)を実施することになりました。」
——部署の垣根を超えたスムーズな連携は、どのように実現したのですか?
平岡様:
「他市の方からも『縦割りの行政の中で、どうやって他部署のニーズに気づいて事業化したのか』と聞かれるのですが、正直そこはあまり意識したことがなく、自然な流れで進みました。当時はコロナ禍でしたので、市役所でもデジタル化が進んでおり、チャットツールが浸透していました。今までは電話で聞いていたことも、気軽にチャットで聞ける状況だったのは大きいかもしれません。」

(写真は平岡様)
こうして異なる部門が連携し、2つの事業が組み合わされ、地域の中で人材と企業課題をつなぐための事業「中小企業等デジタル化推進支援事業及び女性デジタル人材育成事業」が生まれました。
経営者への事業説明行脚から始まった手探りの初年度、そして現場に通った3年間
——実際に事業を立ち上げてからの、企業の反応はどうでしたか。
平岡様:
「立ち上げ初年度は本当に苦労しました。これは課題の一つでもあるのですが、事業の目的も浸透しておらず、事業者側も何が得られるのか分からない状況でした。半信半疑の中、初年度は本当に『一本釣り』のような形で、社長に『セミナーだけでも受けてください』とお願いして回りました。市報やホームページでも案内はしているのですが、経営者の方々にあまり見ていただけない実情があります。」
インタビュアー:
「必要な人に情報を届けるというのは、どこも苦労する点だと思います。今後も工夫が必要になりそうですね。」
平岡様:
「情報の届け方は今でも大きな課題だと感じています。初年度のセミナーに参加していただいた事業者様は25社でしたが、ほとんどが市とフォーバルさんから直接お声がけした事業者様でした。」
情報の溢れる世の中で、多忙な日々を送る経営者に情報を届けるには、待つだけでは実現が難しいという現実がありました。初年度は個別に声をかけて実現したセミナーでしたが、この参加企業の中から10社が伴走支援へと進み、実際に成果も生まれています。伴走支援期間は、平岡様も現場へ足を運んだといいます。
——市の職員が定期的に現場へ足を運ばれるというのは、なかなか無いですよね。
平岡様:
「そうですね、私はなるべく現場に行きたいという思いがあります。新たな事業を起こすためにも生の声は絶対に必要ですし、予算獲得の交渉材料としても必要です。ほぼすべての支援日程に、5社ほど同行させていただきました。市の職員が現場に通うことで信頼関係も生まれ、経営改善のプロセスも勉強させていただく良い機会でした。」
トップの意識変革が全社を動かす:DX認定と売上倍増を生んだ伴走支援の成果
——実際に当時のセミナーに参加された方々の反応はどうでしたか。
平岡様:
「最初は半信半疑で参加された経営者の方々が、事業を通じて『少し一歩進んでみようかな』と前向きに意識を変えていったこと。そうした変化のきっかけを生み出せたことが、この事業の一番大きな成果だったと考えています。
初年度でいうと、例えば精密部品の加工等をされている企業様に伴走支援させていただく機会がありました。全5回の支援を経て、だんだん社長の意識が変わり、令和6年(2024年)の年頭挨拶で『会社をDX化させる』と社長自ら宣言、その年の11月に『DX認定』(※1)まで取得されました。」
※1「DX認定」とは、「情報処理の促進に関する法律」に基づき、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営のあり方などについて、DX推進の準備が整っていると認められた事業者を国が認定する制度です。
インタビュアー:
「意識改革して社内改革までしてもらえるというのは、支援の甲斐がありますね。」
平岡様:
「はい。社長の意識が変わると、ここまで会社全体が変わるのかと感じられた事例でした。その企業様のホームページを見ると、以前よりもかなり魅力的な作りに刷新されており、『こんなところまで変わるのか』と感じました。」
初年度の事例をきっかけに支援事業の規模も拡大し、初年度10社が上限だった伴走支援枠予算は、翌年度以降は倍になったといいます。
平岡様:
「デジタル化の事業では下記のように、5つほど成果が上がりました。
1つは、先ほどの事例のように、経営者のDXへのマインドセット。
2つ目に、アンケートを通して資金面での支援期待もありましたので、国の補助事業に上乗せできる市独自の制度を活用し、伴走支援の過程で明らかになった課題(ソフトウェア投資が必要など)に対して資金的な支援もできるよう、相乗効果を狙った展開をしていました。実際、勤怠管理ソフトやCADなど、伴走支援を受けた事業者のうち、3年間で10社に補助を行いました。単に経営改善の伴走支援をしただけでなく、資金的な支援も合わせて実施できたのは良かった点です。
3つ目に『デジタル女子』の市内企業とのマッチングについても、4社ほど地産地消でのマッチングに至りました。
4つ目、5つ目として、伴走支援を受けた結果、売上が倍に伸び、黒字化を達成した事例や、価格転嫁に成功した事例など、DXによる業務効率化に加え、収益力の向上にもつながるといった多様な成功事例が生まれました。そして、それらが市内事業者支援の成功モデルとして、今後横展開できる武器になったと感じています。」

「現場が汗をかけば結果もついてくる」という好循環が、事業継続を支えていました。
一方で、3年間で接点を持てた企業は、セミナー参加の最大母数でも100社ほど。市内の約3,600事業所のうちの約3%にとどまるという課題感もありました。公式ホームページへの掲載や案内も行っているものの、依然として「知っている人しか申し込めない」状態だったと平岡様は振り返ります。
そして現在は、エネルギー価格の上昇や物価高騰、人手不足、金利の上昇、脱炭素への対応など、社会・経済環境がさらに大きく変わってきています。これまでのDXに加え、様々な経営課題に対応し、より広範囲にアプローチすべきという考えのもと、「経営力強靭化支援事業」が新たに立ち上がりました。
「DX支援」から「経営力強靭化」へ:年150社規模へ広げるプッシュ型アプローチ
——今年度からスタートした「経営力強靭化支援事業」とはどのようなものでしょうか。
大澤様:
「厳しい経営環境が続く市内事業者に対し、支援者側が積極的な働きかけによるプッシュ型の支援を行い、経営課題の可視化と、その解決に向けた支援を行うことで、事業者の生産性向上や収益力改善等を目指すものです。デジタルの支援も続けますが、それ以外にも販路拡大や価格交渉など、事業者様が抱える課題は多岐にわたりますので、広く経営課題の解決に向けた支援を行うこととしています。これまでの事業成果を踏まえ、補助金のように、相談に訪れた事業者に対応する『プル型』の支援から、支援者側が積極的にアプローチする『プッシュ型』の支援を行い、さらに一歩踏み込んだ事業者支援モデルを構築していきたいと思います。」

(写真は大澤様)
平岡様:
「令和4年(2022年)頃からエネルギー価格の上昇や賃上げの要請、人手不足、脱炭素の規制など、社会・経済環境が大きく変わる中で、DXによる業務効率化だけでは不十分だという状況がありました。
さらに、令和7年(2025年)11月に発表された国の総合経済対策の中で『中小企業・小規模事業者の賃上げ環境整備』が推奨事業に新たに加わったことも背景にあります。中小企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、賃上げを実現するためには原資の確保が必要であり、収益力の改善が不可欠です。
3年間で数%の企業にしか届けられなかった結果を踏まえ、市がプッシュ型でアプローチできる支援モデルとして、今年度『経営力強靭化支援事業』を立ち上げました。」
新事業は、単年度で150社を対象とする規模です。3年間で100社ほどだった規模を、1年で超える会社数にアプローチできる計算になり、3年間続ければ400~500社規模への展開を見込んでいます。
一連の支援を行うことで、赤字経営からの脱却や、さらなる成長・発展に向けた取り組みの強化などを促し、収益力の改善により、前向きな投資を促進し、結果として従業員の賃上げにつながるような支援モデルをつくっていければと思います。

(中小企業等経営力強靭課支援事業の構造イメージ図)
——どのような企業様に参加してほしいですか?
大澤様:
「一番は、慢性的な赤字が続いていて、自分たちのリソースや知識だけでは経営改善ができない、という企業様に積極的にご参加いただきたいです。金融機関や商工会など、いろいろな人たちのノウハウやリソースを活用して経営改善につなげていただければと思っています。」
平岡様:
「伸びしろがある企業様や、赤字で伸び悩んでいる企業様にも手を差し伸べて、伴走支援によって収益力改善を図れるような『次の東村山モデル』を作っていけたらと考えています。」
150社のうち、経営改善が急務な事業者や成長が見込まれる20社は伴走支援へ。残る130社は、多様なリソースを持つ「サポート企業群」によるマッチング支援を行う仕組みです。この中には、デジタル人材育成事業を卒業した女性たちも登録され、地産地消の流れが今年も継続されています。
地元金融機関等との連携:地域ぐるみで「見過ごさない」支援網の構築

(役所内の掲示板と、東村山公式キャラクターのひがっしー)
——地域連携型支援の具体的な動きを教えていただけますか。
大澤様:
「市内の銀行・信用金庫8箇所等と連携した『支援者ネットワーク』を構築しました。金融機関から『こう困っている事業者がいるので、プッシュ型の支援をしてもらえないか』という形で情報を共有していただいたり、私たちだけでは見えていなかった事業者のご紹介をいただいたりしています。また、フォーバルさんの方でも市内の企業に対して電話等でアプローチを行っていただいています。
さらに、昨年度までの事業を知る企業からは『またお願いしたい』という良い循環も生まれています。」
最後に、今後の展望について伺いました。
——市内の企業様へのメッセージと、今後の目標があればお願いいたします。
平岡様:
「事業者支援の政策というのは、答えがない部分があります。やはり経営者・事業者の声にしっかりと耳を傾けて、それに対応する政策を作るというところに尽きると、3~4年間の事業を通して強く感じました。そこをサポートいただけるフォーバルさんのような営業力は非常に頼りにしていますし、定期的に情報を共有いただけることで、こちらが知り得ない情報も得られます。
令和5年度(2023年)に伴走型の事業が始まってから、市の産業振興に関する考え方も変わってきたと思います。市内には、小規模な事業者が多い中でも、オンリーワンな技術やサービスを持っている会社が多くあります。国としても、企業の成長を後押しする様々な政策を進めていますので、東村山市においても地域経済を引っ張っていける事業者を創出できるような政策を、フォーバルさんのような民間企業の皆さまと連携して今後も作っていけたらと思います。」
大澤様:
「最初のうちは事業者様の補助金の相談が多くて、単に『機械を導入する』『設備を変える』というのがゴールになってしまっていることが多かったのですが、伴走支援の成果もあって、今では『道筋を立てた上で、その手段として補助金を使う』という、目的を持った使い方をしていただく方が増えてきています。この事業も複数年度にわたって取り組めたらと考えていますので、市の他の補助事業もうまく組み合わせながら、どんどん活用していただければと思っています。」
——ありがとうございます。ちなみに平岡様は、今の企業立地推進のお立場では、どんな取り組みをされているのでしょうか。
平岡様:
「今のポジションでは、市内事業者様の事業拡大等に伴う施設の増設や追加の設備投資、そしてフォーバルさんのように市外から新たに拠点を設けていただける企業様への支援施策の展開などを行っています。今後、市内には、数千平米規模の事業用地が新たに創出される予定で、東村山市内への企業立地に向けた活動をさらに進めていく予定です。
東京都内への進出や、都心ではなく郊外に拠点を設けたいという企業様がいらっしゃれば、ぜひ情報としてお問い合わせいただけるとありがたいです。」

(東村山市は志村けんの出身地。駅前には銅像が設置されている。)
まとめ
東村山市の取り組みは、「アンケートで見えた課題」を、待つだけでなく「プッシュ型で届ける支援」に変え、さらに「伴走支援による成果」を積み重ねて次のモデルへと進化させてきた歩みでした。
さらに、DX・デジタル化の市独自補助活用や、売上の増加、多店舗展開、地域人材の活用などの具体的な改善の成果に加え、東村山市自体も2023年5月に内閣府から、東京・多摩地域で初めて「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」にダブル選定されました。
経営者のマインド変革、地産地消の人材マッチング、そして地域金融機関等とのネットワーク構築へと進化を続ける「東村山モデル」は、全国の自治体・地域企業にとって非常に価値ある示唆に富んでいます。
本記事を読んで興味を持たれた東村山市の事業者様は、ぜひ産業振興課へお気軽にご相談ください。
取材協力

(市章を掲げる像と、東村山市役所)
東村山市役所
〒189-8501 東京都東村山市本町1丁目2番地3
地域創生部 産業振興課
企業立地推進担当主幹:平岡晋吾様/商工振興係:大澤純人様
お問い合わせ先:042-393-5111(代表)
HP:東村山市公式サイト
中小企業等経営力強靭化支援事業について:東村山市 中小企業等経営力強靭化支援事業